小坂裕子さんの「フレデリック・ショパン全仕事」を読んだので感想を書いてみたいと思います。
どんな曲だろう?と思って辞書的に引くと何かしらの解説が載っているという優れもの。
全作品の解説だけじゃなくて、ショパンが作曲した順に載っているので「伝記」としても読むことが出来ます。
ショパンはクラシック音楽家の中でも最も身近な人だと思いますし、その音楽に触れることもかなり多いかと思います。2021年はそれこそショパンコンクールもありましたから、気になる作品を調べたくなると思いますが、そんな時に手元に置いておくと役に立ってくれる一冊かと思います。
「フレデリック・ショパン全仕事」の特徴
ショパンが作曲した順に並んでいて、それぞれの曲のエピソードと共に伝記としても読めるのが特徴的。
作曲時周辺のエピソードや背景に重きが置かれて解説されています。「作品解説」の項目では音楽的な解説が数小節の楽譜の引用と共に簡単にされています。
そして数十作品毎の区切りでより大きな括(くく)りでのエピソードやジャンルについて語られている項目も入ってたりもします。
最初の目次は「Op.」毎で、ある程度まとめて「4つのマズルカ」や「12の練習曲」などとザックリした物となっていますが、巻末に細かく作品ごとで調べられるように索引も付いているので安心。
点(作品)だけじゃなく線(伝記)としても読める有り難さ
最も特徴的なのがやはり点(作品)毎として、全作品を辞書のように読める有り難さです。
作品ベースだからこそ、その作品の作曲背景、ショパンのその当時の生活の様子、そして献呈者も書かれていることから「誰」が関わっているかも分かって作品1曲1曲への理解、愛着が増すと思います。
ショパンが離れなければならなかった祖国ポーランドへの思いは勿論ですが、ショパンに関わった人たち(リストとかシューマンとか)、恋のエピソード(ジョルジュサンドなど)、病などがどう作品に影響を与えているかが割とサクッと読める形でまとめられていて豆知識的に知ることが出来ます。
「作品解説」の音楽的説明では数小節の楽譜の引用とその曲の「調」、「拍子」も載せられていて、どのような構成なのかが簡潔に、でもなるほどと思うようなボリュームがあってこれまた分かりやすく頭に入ってきます。
そしてこれらが作曲順、ショパンの生涯をなぞらえて並んでいるので、作品の変遷と共に線(伝記)として通読するのにも適しています。
伝記がこの本の主目的ではないと思いますが、それこそ伝記小説のような文字量や物語のボリュームは控えめなので簡潔に分かりやすくショパンの生涯を追えると思います。
少しだけエピソードを引用すると、
「舟歌」
1864年、この年からショパンの創作活動は少なくなる。
〜中略〜
このころサンドが完成させた小説『ルクレチア・フロリアニ』はあたかも、ショパンに対するサンドの気持ちを描いているようで、ふたりの友人は不安を抱いている。そこに描かれているのは主人公であるルクレチアが神経質なカロルとの恋に疲れ果て死んでいく物語だからだ。経験したことだけを題材にするのがサンドの手法なので、周囲はサンドがとうとうショパンに愛想をつかしそうだと考えたのだ。
まさに終わりの始まりの時期にジョルジュサンドは小説に書いていたという。苦笑)こんなの知るとまた舟歌の聞き方も少し変わってきますよね。それにしてもこの小説読んでみたいかも。
「ポロネーズ第5番」
注目すべきは、4部形式のなか、第3部にマズルカが聞こえてくることで、リストはこの作品をショパンのもっとも精力的な曲として絶賛している。
この曲めちゃくちゃ好きで、途中のマズルカもホントに絶妙。リストも絶賛してるのか!ほほぉ〜、なるほど...って思うわけです。笑)
こんなエピソードが特に主要な作品には差し込まれているので読んでいて面白いですね。
物足りないと思ったら
辞書的に、そして軽く伝記としての「網羅性」、要点がまとまっていて分かりやすい、という意味では秀逸な本なんですが、やはりどうしても物足りなさも感じる部分もあるかなと。
作品によっては(「ポロネーズ第5番」は傑作ですが結構あっさり目で、「ラルゴ」は反田恭平がショパンコンクールで弾いて話題になりましたが、ホントに、ホントにあっさり解説。笑)かなり簡潔に説明が終わってしまうものがあったり(それぞれの作品のエピソードを深掘りするのは、それはそれはめちゃくちゃ大変な事だと思います)、伝記としてはこの本の一番の目的ではないと思いますが、伝記として読むとやはりそこは少し物足りなさは出てくると思います。
その点ではちゃんとした「伝記」や、それこそ痒いところまで手が届く作品解説がされている本は中々無いかもしれませんが、他のショパンに関する本を読む事になると思います。
補足的な本にはなると思いますがおすすめの本を載せておきます。
fa-bookショパンの本
まとめ
2021年にはショパンコンクールも行われましたが、このご時世もあってライブ配信のおかげで多くの人が見たんじゃないでしょうか。
僕もこのショパンコンクールを通して、改めてショパンが好きになりましたし、ショパンの好きな作品が増えたなと思います。
アーカイブ、奏者ごとの演奏動画も上がってまだまだ余韻が続きそうなので、ある程度の作品が頭に入るまではお世話になる本になりそうです。